アイキモード①

文中に何度か書いてきたアイキモード、それが何かについて自分が体験した事実も書いておかなければならない。実際にこの身体で体感した摩訶不思議な合気の現象のことを。

初めてそれを体験したのは、平成二十六年の三月に本部道場の稽古に参加した時のことだ。どのような技を稽古していたかは覚えていないが、急に歩み寄ってきた会長が「おもしろい体験させてあげようか?」と言う。「はい!」と答える間もなく、「これがアイキモード」と言った。その瞬間である。一種異様な雰囲気がこの身に落ちた。

いま思えば、非接触の合気をかけられたと思うのだが、瞬時に身体が固まったのである。それはほんの一瞬のこと。
「で、これがアイキモードを抜いたところ」
そう言われた途端に呪縛が解けたかのような感覚になった。こちらにしてみれば、「今のあれ、一体なんだ?」という感じである。それはまさに、狐につままれるという表現がふさわしいような不思議な現象だった。
それが一回目のアイキモード初体験。

二回目はやはり、本部道場を訪ねた時のことだ。通常の稽古時間より早めに道場に着いた自分に会長のマンツーマンの指導が始まった。一連の座技を稽古した後、立ち技に移行した時のことだ。何を思ったか、会長が「構えてごらん」と言う。言われるままに、オーソドックスで両手を上げて構える。すると、「そこで、自分の全身に力を入れてごらん」と言う。格闘技でも全身に力を入れて構えるなんてありえないのだが、言われたとおりにやってみた。

「はい、そこで一気に力を抜いて!」
言うやいなや、会長が氣を送るかのような動きをした。すると…自分の身体が別物のなにかに変化したような感覚になった。
「そう!それで私に何かしかけてきてごらん」
―しかけろと言われても何をすればいいか分からない。一瞬、迷ってから縦拳突き倒しをやったところ、盤石の態勢のはずの会長が崩れそうになった。

「そうそう!それ!もう一度、やってごらん」
二度目を促されて同じことをやろうとしたら、今度は崩せない。という以前に急激に変化した自分の身体がまた、元に戻ってしまったのである。以降、何度か試みたが、できない。

「抜けたね~。でも、アイキモードがどういうものか少しは感じられたでしょう」と会長。
確かに少しは感じられた。だが、「あれってどういう現象だ?」という感じである。
一回目もそうだったが、二回目に自分自身が異質の感覚になれたことは分かっても、なにがなんだか分からないのだ。

ここで一言、断っておく。自分はこと、武道・武術、格闘技に関しては超がつくほどの現実主義者だ。アンテクノロジーなことは一切、信じない。氣で相手が吹っ飛ぶなどの類の話は、かける側とかけられる側のラポールか演武的なものと思っていた。だから、二回にわたって不思議な体験をしたにもかかわらず、疑問がわいた。「あれは瞬間催眠術みたいなものではないか」と思ったのである。しかし、そういう類の体験は十数年前にしたことがある。

あるメンタルセミナー(スポーツメンタルのセミナー)の場で行われたのが、その場には確か二十名近くの受講者がいたと記憶している。セミナーは三日間、連続で行われ、その最終日にコーチとプレイヤーの信頼関係が構築されると、こういう現象も起こりうると、その講師は言った。そこでやったのが瞬間催眠みたいなものだったのである。

講師がある参加者を呼び、数分間、声をかける。その後、椅子に座らせた人の顔に自分の両手をかざして「リラックスして、私のカウントを聞いてくださいね」と言ったのだ。
「一、二、三…」カウントを聞いているうちに、その人は意識を失うかのようにぐったりとなった。
すかさず、講師が「私が合図を送ったら、すぐに目覚めます。はいっ!」
声を聞くなり、その人は目覚めた。不思議そうな顔をしながらも「今、すごく気持ちがいいです」と言う。それを数名の人が受けた。全員ではないが、やはり、同じような状態になる。感想を聞くと、みな一様に「身体も心も開放されたかのような、楽な状態になっています」と言う。
それなら、自分もかけてほしいものだと受けたところ、これが全くかからなかった。
講師にこう言われたものだ。「あなたはまだ、私のことを信頼していない」と。
何を言うかと思った。信頼できなくて当たり前の話だ。たかが三日間のセミナーでそんな気持ちになれるものかと…。

その話を別のある場でしたところ、そこで初めて「ラポールによる現象」というのを知ったのである。催眠術的なものは受ける側が「かかりたい」という気持ちにならないと、そう簡単にかかるものじゃないと。

断っておくが自分は人に対して、猜疑心が強いタイプではない。自分で言うのもなんだが、素直な性格なのである。ただし、いくらその人を信頼しようがなにしようが、訳の分からないものにはかからない。前置きが長くなったが、そんな性格なのだ。だから、二回のアイキモード体験があっても、すぐその現象を素直に受け入れる気持ちになれなかったのだ。

白状するようだが、氣空術の技そのものも当初は半信半疑の思いが続いていた。
確かに投げられ、崩されたりはする。その技は力対力ではなく、関節を決めたり、組技で絞めるものでもない(これはこれで無茶苦茶、効く)。
簡単に言うと、相手の無意識にかける技(動き)。二方向にしろ、二触法にしろ、脳が既知の動きに反応できない技であり、動きなのだ。
それで自分は何度も技をかけられているのだが、ある時はこうも考えていた。「脳が対応できないから、投げられ、崩される。ならば、何度も技をかけられるうちに耐性ができて、かからないこともできるのではないか」と。

武道・武術にしろ、格闘技にしろ、やり続けていれば、相手の攻撃への反応が早くなる。もともと、人間は危険を回避する動きを知っているのだ。そのうえでなんらかの武道をやれば、打撃も組技もそれなりの防御する反応・動きができるようになる。むろん、それができるようになるには徹底した稽古、トレーニングが必要になるのだが、それと同じように氣空術の技にも対抗できるようになると考えていた。

実際、稽古を積むにつれ、それができるようになったのだが、不思議なのがアイキモードである。
支部稽古では物足りなかった自分は稽古仲間と共に週一で自主稽古も始めた。そんなある日のこと、いつになく調子がいいなと思っているうちに、急に体が重くなったような感覚を覚えた。その時である。相手に右のパンチを打ってこさせたと同時に、前へ出たらその相手が声を上げて倒れた。不思議に思いつつも、同じことをすると、やはり、触れた瞬間に倒れたのだ。起き上がってきた彼が「今、何をされたか分からなかった」と言う。そこで今度は柔道三段の彼に大外刈りをかけてもらうよう、頼んだ。相手が投げようとしてくる。それに対して、相手の体を包むようにしたら、同様に真下に倒れたのである。稽古後、帰宅して会長にその話をしたところ、「それがアイキモードだよ。良かったね!」と言われた。

できた自分にしてみれば、嬉しくてならない。翌日も再確認したいがために、二人で稽古をしたところ…なんと、相手も同じことができたのである。自分が左トレートを打った瞬間、瞬時に倒された。右ストレートでも同様のことが起きた。交替して、自分が仕手側にまわったところ、やはり、できる。「遠慮せず、思いっきり殴ってきてくれ」と言ったところ、先ほどよりもすごい勢いで相手が倒れた。それが何度も続いた。彼曰く、「思いっきり打った方がその分、衝撃がそのまま自分に返ってくる」と言う。このアイキモードについては、様々な体験があるので、また次回へ。

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