ボクシングについて④

観客を戦慄させるような強打者の魅力

WBA世界バンタム級王者・井上尚弥選手、強いなぁとつくづく思う。最近はボクシングの世界戦もあまり観ていないし、「あの試合は良かった」、「この選手は強い」と人から聞いても、さほど興味はないのだけれど、彼だけは別格だ。まさに、モンスターの呼び名通りのボクシング界におけるスーパースターだと思う。
先日の横浜アリーナで行われた「ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ」の1回戦でもなんと、開始70秒でのKO勝ち!この時の本人の言葉にうならされるものがあった。対戦相手を豪快に倒す直前、「自分が仕掛けた時は一瞬、時が止まるような…」と言うのである。彼はゾーン(選手が極度の集中状態にあり、他の思考や感情を忘れるほど、競技に没頭しているような状態を体験する特殊な感覚)を勝手な憶測だけれどきっと、何度も体験しているのであろう。

ロベルト・デュラン

ロベルト・デュラン

最近は世界戦も観ていないと書いたけれど、昔は欠かさず観ていた。往年の名チャンピオンたちの試合である。心に残っている選手(かなり古いけれど)はパナマの英雄と言われたロベルト・デュラン。その強打は「石の拳」と言われるぐらい、凄まじいものがあった。
ピークを過ぎたあたりにシュガー・レイ・レナードに挑戦し、初戦は判定で勝利を収めたものの、二戦目は徹底的なヒット・アンド・アウェイをとられ、それに嫌気をさすかのように試合放棄をしてしまったのは残念だった。それでも、「馬をも倒す」と噂されたハードパンチには凄みがあった。倒しても、倒されても豪快な試合を見せてくれるスーパースターだったのである。特にWBC世界スーパーウェルター級王者トーマス・ハーンズと対戦した試合はその倒され方から、「ラスベガスの恐怖の一撃」と言われるぐらいのKО劇。そう、ロベルト・デュランは試合というより、最高の演劇を見せるかのような名表現者でもあったのだ。

思い出に残るハードパンチャー

井上尚弥選手の話に戻るけれど、最初に世界タイトルを獲った際、一度もKOされたことがなかったという対戦相手が「グローブに何か入れているんじゃないか」とコメントするぐらいのパンチであったらしい。

パンチの強い選手の打撃を「重い」「硬い」という表現があるが、井上尚弥選手のそれはその両方なのであろう。ちなみに自分もボクシング時代、そういうパンチをくらって、腰から崩れたことが何度かあった。16オンスのグローブ着用のスパーリングで、である。その選手は日本タイトルに挑戦して、KO負けはしたものの、ハードなパンチ力は他を寄せ付けないものがあった。ジムの誰もが圧倒的な破壊力を持つ、その選手とのスパーリングを嫌がったぐらいに。

アレクシス・アルゲリョアレクシス・アルゲリョ

話は戻って、海外の強打者。端正な顔立ちからリングの貴公子の呼ばれたニカラグアのアレクシス・アルゲリョという選手がいた。身長、178㎝。長身で細くて、見た目からはとても強打の持ち主とは思えなかったけれど、この選手のパンチも強かった。国内ではKО仕掛け人と呼ばれ、その剛腕で対戦相手をことごとくマットに沈めたロイヤル小林選手が対戦した時、アルゲリョの突き刺すかのようなパンチはスピーディに凄まじかった。最後はえぐるようなボディブローでKО勝利した瞬間はテレビで観ていて、戦慄したことを覚えている。

他にも様々な強打者がいたが、パンチ力があって、対戦相手を高い確率で倒す選手は見応えがあったものである。ジョージ・フォアマンもそうだったし、マイクタイソンもそうだった。あんな殺人的なパンチをくらったら、対戦相手はたまらないだろう。いずれにしても、これぞプロボクサーという派手なKО劇は、観る人を魅了するのに十分である。

ジョージ・フォアマンジョージ・フォアマン
マイク・タイソンマイク・タイソン

そんな強打の選手に憧れて、自分も何とかあのようなパンチ力を身につけたいと練習したものだ。しかしながら、強いパンチはもって生まれた才能のように思えてならない。むろん、練習によってそれなりのパンチ力は高めることはできる。でも、このあたりは天性の素質と思うのだ。一時、ウエイトトレーニングをやれば、パンチ力も強くなると思い、その練習に励んでいたこともあった。でも、大した効果は上がらないのである(今は優れたフィジカルトレーニングがあるから、やり様によって効果は上がると思う)。

いずれにしても、そういうハードパンチャーは本当に凄みがある。華麗なアウトボクシングでそんな選手の攻撃を封殺する選手もいて、それはそれでまた素晴らしいテクニシャンと思うのだが、個人的にはやはり、強打を誇る選手の方が好きだ。

伝統派の空手の瞬速の突き

ボクシングの話から少しそれるが、同じく「拳」を打撃に用いる空手家はどうかである。フルコンタクト空手ではなく、伝統派の空手はどうか?これはこれで、速い!スピードはボクサーのそれと遜色がないと思う。というのは、自分も一時期、伝統派の空手を学んでいたし、その試合も何度か観ているからだ。ボクサーより、はるかに遠い間合いから飛び込むかのごとくの勢いで追い突きなり、順突きなりを放つ空手家の拳はこれもまた、脅威である。一時、劇画でフルコンタクト空手を取り上げていた者たちが伝統派の空手を揶揄するかのごとく表現していたことがあったが、そういう連中は一度でも伝統派の空手家の一撃を経験したことがあるのだろうか。

自分が長年、格闘技をやってきた経験でその仲間にも武道・格闘技の猛者たちが大勢いた。で、この話は実際にこの目で見たフルコンタクト空手の知人と伝統派の空手の知人の組手。ルールはスーパーセーフ着用の顔面ありだった。二人とも空手の熟練者だったが、開始直後に伝統派の空手家が一気に間合いをつめて、顔面を一撃。倒れはしなかったものの、相手の頭がガクッ!と後ろに傾くぐらいの衝撃だった。そこで一旦、止めて組手再開。一撃を警戒したフルコンタクト空手の知人はガードを高く上げて、多彩な蹴りから接近戦のパンチの連打へと持ち込んだ。

勝敗の決着はつかずだったものの、組手を終えた両者が相手の攻撃を称え合っている姿が清々しかった。なぜなら、その組手はお互いに通常、やっているルールとは別物だったからだ。にもかかわらず、あえてそのルールの組手に挑み、互いの攻撃を自らの肉体で感じ合ったのである。素人がやれ、なになにの武道、格闘技が最強だと空想で語るのは次元が違う。鍛えている者同士はそんな空論とは一線を画した強さを持っているのである。

さて、そんな速い伝統派の空手家とボクサーがパンチのみで戦ったら、どうなるか。これはもう、裸拳とグローブの着用が大きくものをいう。グローブ着用なら、ボクサーの圧勝である。自分も空手時代に四回戦とボクサーとボクシングルールでスパーをしたことがあるが、相手にならなかった。グローブを着けるということがこんなにも疲れるものかを痛感させられた。わずか、二ラウンドで手が上がらなくなったのである。グローブが意外に重いことも感じた。蹴りが使えないことも圧倒的に不利だった。

では、空手家が裸拳でボクサーとスパーをしたらどうなるか…。これは体験したことも見たこともないから分からない。あくまでも想像の範疇だが、空手家がボクサーのパンチをしっかりガードして、近間からでも突きを当てることができれば展開も変わってくるかもしれない。拳を鍛えぬいている空手家のそれは破壊力がある。うまくヒットさえすれば、ひょっとして空手家にもチャンスがあると想像するのである。

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