空手道 禅道会 小沢 隆 代表が現代社会の問題を考察する.2

今回の小沢代表の話は「脳が身体に及ぼす影響」について。

痛みの体験が大脳に強い体験として残っているとどうなるか

腕や足が切れた人はないはずの腕や足が猛烈に痛むという話は聞いたことがあるのではないだろうか。そして、この治療法をつくったインドの脳神経科学者・ラマチャンドランが「脳のなかの幽霊」という本を書いている。切れた腕や足がないはずなのに、現実にあるかのように痛む。痛いという気がするのではなく、実際に激しい痛みを感じる。どうしてそんな現象が起きるのだろう。また、あるいはこれといった原因もないのに、腰痛、肩こり、首こりに悩む人も大勢いる。なぜ、そんなことが起こるのか。その理由を小沢代表に聞いてみた。

「これは簡単に言うと、人間というのは大脳を大きくすることが生き残る手段であったのです。大脳が大きいということは、情報がたくさん入るということ。本能的な脳を超えて、後天的な情報・体験がつまっているんですね。身体が痛むということは、例えばローキックを蹴られたら、痛むのは足ですが、知覚するのは脳。その体験や痛みは大脳に書き換えられて残っているのです。それと同じように腕がない人、足がなくなった人がなぜ、ないにもかかわらず痛むのかというと、その痛みの体験が大脳に強い体験として残っているからです。これをさらに置き換えると、人間関係の嫌な体験や精神的苦痛、あるいは物理的に痛かった体験が残っているのはすべて大脳で感じているからなのです。特に腕がなくなったとか、足がなくなったというのはその人にとって精神的かつ物理的にも大変な痛みを伴います。それが大脳に強いインパクトで刻まれるのです。一種のPTSD、心的外傷と言っていいのですが、脳は現実か非現実かの区別は実はつかないんです。だから、梅干を思い浮かべると唾が出るように、そこに梅干がなくても唾が出ます。だから、想像するだけで食べたのと同じ生理現象が起きるのです。つまり、脳は現実・非現実の区別はつかないんです。ということは、さらに一歩踏み込んで言うと、人にとって、身体の痛みの大半が『現実でないことで感じていることの方が多い』ということになるのです。そういう意味で腰痛、首痛のほとんどは現実的な物理的な痛みではないことが高いと思われます。過去の強烈な思い出・体験があるので、その時と同じような生理現象が身体の中で起きているのです。つまり、自律神経が阻害させられ、血流の流れを悪くして、それが二次的に姿勢に影響を及ぼして、悪循環を作り出しているんですね。慢性的な痛みの大半がそれを作り出しているのではないかと推察されます」

身体的マインドワンダリングから身体的マインドフルネスを試みる

小沢代表の話は続く。

「禅道会の門下生の例ですが、とても姿勢が悪い女性がいます。ところが、ワンピースなどを着て、おしゃれをすると、途端に姿勢が良くなるんですね。しかし、本人はその時、姿勢を良くしているか悪くしているかの自覚は全くないんです。この点についてお話しすると、彼女も酷い首の痛みや偏頭痛があるのですが、表に出る機会を増やしていくと、基本的にバシャマなどの部屋着を着ている時間が短くなり、他所行きの服を着ている時間が長くなります。本人が無自覚でやっていることですが、それだけで首の痛みや偏頭痛はぐっと減るのです。これがどういうことかと言うと、外的な情報が姿勢を良くするという方向性に結びついているのです。それが結果として自律神経の働きを正常化させ、酷い首こり、痛み、偏頭痛の症状はほぼなくなりました。しかし、家に戻ってバシャマを着た途端、それらの症状は再発し、顔の表情までが暗くなってしまう。だから、現代社会で引きこもりが多いという社会現象はそういう意味でも心身共によくない状態を自ら招いているんですね」

個人的な話だが、自分も三年前に左手親指の付け根を粉砕骨折し、人生初の手術・入院という体験をした。その手術は局所麻酔で二時間にも及んだ。術中の意識ははっきりしているので、かなりの緊張感があったのだが、自分の場合も怪我による手術時の体験が心理的な首こりになっているのであろう。別の整形外科医からは「首こりはストレートネックが原因」と言われたことがあるが、これについても小沢代表からこんな話をされた。

「人間の首の骨・腰の骨というのはそれぞれ個体差があって、まちまちです。だから、首がこるのはストレートネックが原因ではなかろうかという話になるんです。慢性的な痛みのほとんどは医師によって診断されるのでその思い込みでさらに痛みが増すという側面もあると思われます。だから、人間の脳の構造というものを突き詰めていくと、ラマチャンドラン氏が言われる『心の中の幽霊』が作り出していることが非常に多いんです。●●さん(自分のこと)の場合は骨折と手術時のストレス、その他の仕事のストレスのもとで、心理的な負担とプレッシャーがかかったのでしょう。実際に起きたことと同じようなことが現在進行形で脳に起こるので、そこで痛みや首こりの悪循環が続くんです」

余談になるが、禅道会の門下生が検診でひっかかかったことで、大腸がんになったのではないかと思い込み、お腹に違和感を感じるようになった。それは気のせいではなく、小沢代表に本当に違和感だと訴えてきたらしい。その門下生は四か月で体重が10㎏落ちたという。しかし、よく聞いてみると、毎日の晩酌を週に一度にして、肉中心の食事も野菜中心に変えた。それで体重が落ちたことで癌になったのではないかと本人は怯えていたのだ。しかし、それは食生活を変えたので、効果的な減量ができたのに過ぎない。その後、詳しい検診をしたところ、どこにも異常はなく、非の打ちどころのない健康体であることが判明した。そういう例をとっても、「心の中の幽霊」により、実際にお腹の中に違和感を感じたり、心身共に相当に不安定な状態になっていたのだ。これは小沢代表の造語だが、身体的マインドワンダリーな状態になって、どこも悪くないのに疼痛が出たりする。それもマインドワンダリング(Mind Wandering 注/心が今この瞬間に起こっていることに意識を向けず、目の前の課題や状況とは全く関係のないことを考えて、さまよう状態のこと)なのである。悲観的になっているので、ネットで調べる情報も悲観的なことばかりに目がいくようになってしまう。不安が雪だるまのようになって、痛みや苦しみがさらに強くなる。ここから脱却するには、「身体的マインドワンダリングなので、身体的マインドフルネスを試みることか必要」だと小沢代表は語る。

「自分の性格に対して客観的な視野を持つ。ストレースコーピング(仕事や人間関係など様々な場面でストレスを感じたとき、上手にストレスに対処する方法)に近い考え方で、自分の思いこみ方そのものを変えるのです。ストレスも『自分が悲観的に考えているのだ!』と思うだけでも違ってきますから、自分の主観に疑問視を持つだけでも痛みを改善する効果があります。そういう客観的な考え方を意識的に導入すること、もう一つは身体的マインドフルネス。例えば歩きながら呼吸をすることにより、循環器系の有酸素力と呼吸法による前頭葉の発達、脳を鍛えることになるんです。呼吸によることで脳の血流が良くなるので、細胞は大きくなり、活性化します。簡単に言えば、脳が強くなるんです。特に前頭葉が強くなります。その二つの方法論を組み合わせることで、『心身とはいかなるものか』という客観的真実を知ることが慢性的な痛みの解消にとても有効なものになります」

小沢代表の話は、武道(特に精神面で)へのアプローチに近いものがあるのではなかろうか。いずれまた、このあたりの話を詳しく聞きたいものである。

  • はてなブックマーク
  • LINEで送る