空手道 禅道会 小沢 隆 代表 名古屋セミナー.3

呼吸法と抗重筋について

小沢代表のセミナーのシリーズ3。

前回の記事では、「楽な立ち幅」をとることが大切であり、それによって、武道や格闘技の試合における稼働力のある動きができるということや、自分で一つ一つの認知を作っていくことの大切さ、「快」が重要であると書いた。今回はその続きを書いていく。

「例えば、八ヶ岳に荷物を揚げるようなおじいちゃんがいます。その人たちは重い荷物を背負って登っていくのですが、大学のラグビー部の若者たちがそれをやると途中でばててしまう。おじいちゃんたちは、地面に対して、どの角度でどう抗重筋を使って登っていくかを自然に体得しているのです。また、背負う荷物もどこに背負えばいいかをよく知っています。
抗重筋は先ほどもお話したように、自重をコントロールできるぐらいで十分です。それと呼吸法です。みなさんが日常、意識はしていないけれど、やっていることを認知すればいいのです。
例えば、電車に乗って座っている時でも、「ああ、今、自分は腹式呼吸をしているな」と認知するだけで全然、違うのです。これを恒常化することが大切です。
普通、呼吸をしている時は延髄でしているのですが、危機感に迫られた場合、例えば、やくざに絡まれたとか、山で熊に遭遇して、逃げるか、戦うかという事態になった時、扁桃体が過剰に働きます。ネコが興奮して、シャーッと、毛を逆立てているような状態です。でも、これを格闘技の試合に置き換えると、そこまでの危機ではありません。ネコのシャーッ状態だと、スタミナは10秒ぐらいしかもたないし、冷静さを失って勝てません」

呼吸法トレーニングで5%海馬体が増え、扁桃体は5%小さくなる

「だから、その緊張状態を緩和するために呼吸を意識すると、前頭前野に働きかけ、その興奮を鎮静化させようとします。そして、戦う時の適した精神状態になれるのです。
そうすると、前頭前野は筋肉のように大きくなります。細胞自体が大きくなるのです。そして、危機を感じやすい扁桃体は小さくなります。そして、海馬体という短期記憶が増えていくのです。八週間の呼吸法トレーニングで5%海馬体が増え、扁桃体は5%小さくなったという実験結果があります。脳細胞は一度、死滅したものは復旧できないと5年ぐらい前に言われていたのですが、そうではないということが分かるようになりました」

グローブをつけているかそうでないかの違いとは…

「話は変わりますが、ミャンマーラウェイの試合を観た方はみえますか?あれ、ボコボコに殴られても案外、倒れません。でも、ボクサーの井上尚弥はきれいに倒しますよね。武道・格闘技をされている方なら、ご存じのようにグローブをつけているかそうでないかの違いです。
グローブによる衝撃は脳に衝撃を与えて、人は倒れます。それが素手やバンテージだけだと、なかなかそうはなりません。しかも、額と拳の骨では、額の骨の方が強いのです。それから、グローブ着用でパンチングボールを叩く時は叩きやすいのですが、それは球面に対して面を合わせやすいからです。そういう意味で試合でのノックアウトの率も上がるのです。
それから、精神的にキレたような人間は素手で殴っても倒れません。急所を蹴っても倒れるかどうかは怪しいです。本当に人間がキレた時は指が折れよう、肘を脱臼しようが、何をしようが、動けるのです。だから、絞めて落とすか、完全にノックアウトしなければ、戦闘不能になりません」

この話を聞いて、つくづく感じさせられることがあった。自分の体験談になるが、今から20年ぐらい前のこと。ボクシングを習っていた自分はそのジムのプロ選手と二人で飲みに出かけた。その帰りがけに、ちょっとしたことからチンピラに絡まれたのである。今にして思えば、その男は覚せい剤か何かをやっていたに違いないと思うのだが、この男と友人のプロボクサーが殴り合いになったのである。さすがは、プロ選手。相手のパンチはなかなか当たらない。しかし、である。何発か友人のパンチが当たったものの、相手はなかなか、倒れない。パンチをくらえば、さらに逆上して殴り返してきた。最終的に友人の得意とする左フックがまとも顎に直撃し、相手の男は昏倒した。だから、キレた人間がそうは簡単に戦闘不能になるという小沢代表の話はよく分かったのである。余談になった。今回の記事では、脳に関する話、呼吸法、抗重筋について書いていくことにする。

呼吸はそれぞれの場面でうまく利用すれば、脳も発達する

「誰しもが呼吸をします。その呼吸をうまく利用して、こういう時は速い呼吸、こういう時は遅い呼吸というようにうまく使い分けることによって、脳も発達します。さらに、その副産物として抗重筋が発達します。華道の先生のきれいな仕草や動作や姿勢、能などの日本伝統芸能に息づく『統一された肚の文化』につながると考えていただければ分かりやすいと思います。そして、その呼吸において最も重要なのは横隔膜を下げるということなのです。しかし、人間は焦ったりすると、あえぐようなすごく非効率な呼吸をするので、過呼吸になってしまいます。その時、脳のセロトニンの数値は下がってしまいます。
さて、ここで武道の話に戻りますが、インパクトフォームを作るために、ミットやサンドバッグを叩くことは必要です。ですが、土台になっているのは姿勢、後は呼吸法。これには、能力差はありません。そうして考えると、誰でもトップクラスのプロ選手になる可能性もあるかもしれません。ちなみに相撲については、相手を押すので、力積は大きくなります。しかし、プッシュなので衝撃値は高くありません。相撲取りが最強説という話もありますが、目まぐるしく動いて、顔を殴って倒すという試合には向いていません。ここはプッシュと倒すことの違いです。だから、それぞれの目的に合った練習になるわけです。そのあたりで、さすがだなと思ったのは、興和警備保障の西村社長です。その打撃はシンプルですが、『これなら、相手を倒せるだろうな』という、説得力がありました。例えば、ゴルフでパットを決める時、ギャラリーが決めてほしい、決めてほしくないと思っていると、プレイヤーはそれを敏感に感じ取っています。それぐらい、人間というのは周りの意図、意志を敏感に感じとり、その人の行動・動作に強い影響を及ぼしているのです。ですから、アウェイなどの場合でも呼吸法でコントロールしなければならないのです」

扁桃体をどうコントロールするかが武道のテーマ

「先の話に戻ると、人間が闘争的になっていると、こちらの技は意外に通用しないのです。私はよく知らないのですが、ブラックジャックという武器があります。あれでガーンと殴られると、人は昏倒するそうですが、これはどれだけ人間が闘争的であろうが、なかろうが、倒されます。相手を倒すための打撃について説明すると、人を倒すには、非日常的な振動を加えることにより、相手が戦闘不能になるのです。脳の命令で身体に微電流が流れていますが、なぜ、人間の脳波や心電図を計るかと言うと、その微電流を測定しているからです。この微電流の流れの関所がおそらく、中国拳法の経絡なのでしょう。だから、ローキックを食らった経験のない人がその打撃を受けると、強い痛みを感じます。人間は日常生活の中では、そのような痛みを感じるような体験はしません。ですから、そこに不自然な波(打撃)が入ると、戦闘不能になってしまうのです。そのような打撃技をつかえるになるのが実は丹田の活用です。人間の身体は水の要素が80%なのですが、この水分の要素は身体が力めば力むほど、水分の要素は減ってしまい、固体化してしまいます。だから、40㎏程度の女性でも酔って脱力した状態になると、持ち上げるのは大変です。これは武道の基本稽古における緩急の動きにも適しています」

小沢代表の話はまだ続く。次回はその最終回。

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