禅道会 大畑慶高の武道人生④

門下生が才能や目標に合わせて、指導するように努める

入門してくる門下生が自分と同じ考えを持っているのではないことを知った大畑は、意識を変えた。前回までの記事を読まれた方は、「そんなの、当たり前じゃないか」と言われるだろう。だが、レンジャーで特殊訓練を受け、一日8時間近い空手の稽古を自分に課してきた大畑である。全ての人が自分と同じと思っても、仕方ないかもしれない。それだけ、大畑の人生は訓練と稽古だけが目の前にあったのだ。他の人が…という思いを抱くことができなかったのである。当時のそんな自分の失敗談を大畑は苦笑まじりに語ってくれた。

「入門してくる人はそれぞれです。誰もがチャンピオンを目指すわけではありません。黒帯を取ること、肉体的に強くなること、十人十色の目標を持って空手を選ぶのです。ですから、“自分なりのチャンピオンを目指す”こと。そのサポートをするのが、武道教育者の役割だと気付かされました。それ以降ですね。門下生が個々に持っている才能や目標に合わせて、指導するように努めたのは」

しかし、新たに大畑の胸中にこのような思いが湧いていた。「道場の門下生からは先生と慕われても、教育者として何かを語れるだろうか」と思ったのだ。大畑が30歳を越えた頃である。それを超える機会をくれたのが大畑の妻であった。エステサロンで正社員として働いていた大畑の妻は個人事業者としてサロンを開き、独立していたのだ。それをきっかけに、大畑も妻とすみ分けるかたちで2006年にワールドジャパン株式会社を設立。妻はBe to Cでエステサロンの経営者、高専出身で機械に強かった大畑は同社で美容機器の販売をすることになったのである。

本当の強さを求めてのメンタルトレーニング

大畑の仕事はトライ&エラーを繰り返しながら、順調な収益を上げるようになった。だが、家に帰宅すると、毎日のように親と喧嘩になっていたらしい。このあたりは家庭環境も複雑で、両親は離婚して、父親は妹を引き取り、大畑は結婚を機に母親を呼んで、一緒に暮らしていたのだ。ところが、その母親と折り合いがつかず、喧嘩ばかりの日々だった。普通なら、うんざりするはずだ。しかし、彼はそれも自分にとってのメンタルトレーニングと思っていたと言う。30歳を越えて事業を進めるにあたり、肉体鍛錬だけでなく、心理学や人間の脳についても学びを深めていた大畑は人がメンタル的な成長をするには、感謝や自己肯定感を高めることが必要なことを知った。だからその原点には親との関係性があるという認識を深めていたのである。

ここで少し話が前後する。大畑と会った時に彼の口から「強さとは愛と死生感」という言葉があった。大畑が自らに問いかけ、課題としていた経験から出た言葉なのだ。レンジャーで日本一の兵士を目指し、空手でチャンピオンになった男である。その大畑が語る言葉だからこそ、説得力があった。武道や格闘技をする者なら、誰もが大畑の話に納得すると思う。そして…、鍛えに鍛え抜いてきた人は「肉だけのトレーニングには限界がある」ことも知っている。精神力だけでどうにかなるものではないのだ。がしかし、肉体と精神の両立を目指すのが本来の武道だ。精神とは、大畑の言葉にもあった「メンタル」である。彼の場合、メンタルの根底にあったのが親子の関連性であったのだ。そこから生じる劣等感だったのである。それを拭い去るにはどうするか…自分が変わるしかないのだ。大畑は自分にとっての試練として受け止め、自らを成長させていこうと思ったのである。

人生最大の試練。大畑はそれをどう乗り越えたか。

しかし、それを超えるようなことが起きた。大畑が30代後半になるかの頃、知人と大規模のイベントを共同で立ち上げようとした時だ。20万人を超えるイベントになるはずだったにもかかわらず、知人の資金使い込みで、共同事業そのものが破たんしたのだ。当時を振り返りながら、大畑はこう語った。

「本来なら、そこで引くべきでした。イベントを開催したら、どのような結果になるかも見えていたのです。にもかかわらず、プライドが先行して、ビジネスモデルができていない状態なのに大規模イベントを開催してしまったのです。その支払が約6000万円。しかも、翌月までに支払わなければならないという事態になったのです。年単位の余裕があれば未だしも、それだけの額を翌月に払うのは、どうあがいても厳しいという試練に直面しました。私に残された道は『なんとかして支払う』、『破産して支払いを回避する』、『逃げる』しかありませんでした。いろいろ考えたものの、どれも問題の解決にはならなかったのです。逃げるなどはもってのほか。それをしたら、私に貼られるのは『詐欺師』の三文字です。こうなったら、社会人として、いや、人間として死ぬことと同程度の事態になります。それだけはどうしても避けたかった。逃げるという行為は私の生き方として、選ぶことができなかったのです」

これは大畑の考えである。そう考えない人もいる。しかし、逃げるという行為が大畑にとって、許しがたいものだったのだ。

本当に強くなるには、他者との関わりが大切。

最終的に大畑は両親に窮状を話した。すると、かつて勤めていた会社の役員でもあった父親が救いの手を差し出してくれたのだ。結果、大畑は最大のピンチから立ち上がることができた。父親からの支援も借金という形にして、社会的にも支払を済ますことができた。なおかつ、彼にとって、もう一つ、いいことがあった。そのことをきっかけに、両親との関係も改善されたのだ。父親とは疎遠で、一緒に住む母親とは喧嘩ばかりの毎日。そんな状態でも血の絆は強かった。自分の窮地を助けてくれた親の姿を見た大畑は、そこで初めて自分が愛されていることを知った。同時にずっと抱いていた劣等感も消滅するとともに、感謝の気持ちがあふれてきたのである。

「強さを求めて生きていた私ですが、一人ではどうしようもない場面に遭遇した時、助けてくれたのは“他者との関係性”だったのです。親との関係性を良くしたいと思っていたのに加え、それまでの自分の社会的な積み重ねが窮地を救ってくれたのです」

起業した頃は顧客に対するサービスも過剰なまでにしていたそうだ。学校のPTAの会長を引き受けたり、町内の副会長もやるなど、仕事や空手以外にもボランティア的なことをしてきたと言う。「どうしてそこまで?」という、自分の問いに大畑は笑顔で答えてくれた。

「強くなることだけを考えてきた私ですが、本当に強くなるには、他者との関わりが大切だということを身をもって、感じてきました。自分の言ったことや、やったことの良い“気”が新たに他者との良い縁を作ると思っているのです。自分がやってきた社会的活動が良い縁を築いていたのでしょうね。支払いを抱えてピンチの時も従業員は心配しながらも一人も辞めることなく仕事を続けてくれました」

“気”という言葉が出てきたが、それは人の意識や想いのことだ。良い気持ちで言葉を語り、接すれば、それは他者にも伝わる。逆にすれば、それも伝わる。以心伝心である。大畑はそれを自然にやっていたのだ。レンジャー時代、空手の稽古、そして事業において、常に他者への気配りや優しさを抱いていたのである。レンジャーでは、バディ(相棒)との関係があったからこそ、厳しい訓練を乗り越えることができた。空手の稽古もそうだ。一人稽古だけでは決して、人は強くなれない。事業にしても、多くの人との関わりがあったからこそ、幸先の良いスタートを切り、ピンチの時も挫折することはなかった。「他者がいるから、自分の限界も突破できます」と大畑は話す。それは彼の実体験からくる、揺るぎない言葉であった。

日本PTA全国協議会会長表彰を受賞した大畑

禅道会 大畑慶高の武道人生 記事一覧

2020年11月19日発売
「伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方」

伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方

禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!
2020年11月19日に出版されます!

発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904

陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。

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