禅道会 大畑慶高の武道人生⑤

白兵戦で屈強な海兵隊を制圧できる実力を求めて

自ら立ち上げた事業で人生最大の試練を乗り越え、人との関わりがいかに大切かを知った大畑。ピンチはチャンスとよく言われるが、大畑は「自分一人では乗り越えられない限界を、他者との信頼関係を構築することで突破する方が大切だと思います」と語る。

初めて、大畑と会った時、「最大の強さは愛と死生観」と口にした。彼の言う「愛」とは感謝の気持ちでもあり、死生観とは「生き様」である。なぜ、そこまで考えるかと言うと、人一倍、日本という国を思っていたからだ。レンジャーに入隊したのも、日本一の兵士になって、国を護るという目的があった。しかし、若い頃は護国の気持ちはあっても、強くなることが彼にとっての第一目的だった。ちなみに、大畑は最初から頑健だったわけではない。未熟児として生まれ、体も細く、背も低かったから、喧嘩をしても負けてばかりだったと言う。そこに加えて、劣等感を抱いたままの少年時代を過ごしてきたのだ。それを覆したいからこそ、自分の中に“強さ”を求めてきた。探求し続けていくことで、自衛隊ではエリート中のエリートであるレンジャーになり、空手でも四回にわたって、チャンピオンになった。

強さという点では、これだけの強さがあれば十分と思うが、大畑の探求心は止まることを知らない。そして、強くなった者は自信がつくから、精神的な余裕も生まれる。他者への気遣いや優しさを持つことができるようになる。大畑もそうだと思ったのだが、実際は違った。レンジャー時代のバディ(相棒)とは、強い結束力があったものの、人と協調することを知らなかったのだ。仲のいい友だちも少なかったと言う。若い頃の自分を思い出したのだろう。苦笑しながら、当時の自分の話をしてくれた。

「それも劣等感からくるものだったと思うのですが、あの頃の私は強くなることを第一に考えていました。空手の道場に入門したものの、徒手空拳で戦うこと自体に興味はありませんでした。15歳の時から柔道もやっていたので、投げたり、倒してから短剣で仕留めることをイメージしていたのです。白兵戦になった時、屈強な外国人に力で勝つことはできません。だから、技術を身につける。投げるだけでなく、打つ、蹴るなどの打撃技術を体得して、体格差があっても、勝てるようになりたいと思ったのです」

その大畑が笑いながら、こんなことを言った。

「当時の私は屈強な外国人をなぜか、アメリカの海兵隊とイメージしていました。レンジャーにいたからでしょうが、仕留める対象はそれだったのです。力だけでは、体格の差は埋めようがありません。それには武道を学んで、技術的に対処でき、白兵戦でも相手を制することができるようになりたいと思いました」

武道は人が人と関わりながら、心身を鍛えることができる

自衛隊の訓練をしながら、空手の稽古にも身を投じた話は前回の記事にも書いた。レンジャーとして訓練と演習、そのうえに空手の稽古である。毎日の訓練が終わったら、17時ぐらいから21時まで空手の稽古だ。休日もほとんど、外出することなく、稽古に打ち込んだそうだ。その大畑に「空手の良さは、何でしょう?」と訊ねた。

「稽古の体系ができていることですね。技術を身につけるシステムが構築されているのが空手のいいところではないでしょうか。それと、道場があって、そこに行くことで気持ちの入れ替えができるもいいと思います。一人で稽古することも大切ですが、場を変えて、他の門下生と共に稽古することで、意識も変わります。空手は基本稽古も移動稽古も多くの仲間や先輩、後輩と一緒に学んでいきますが、師範の指導を受けられる以外にも刺激も受けるたり、巧い人を見本にできるなど、上達できる要素が数多くあります。教えられることもなく、放りっぱなしでは、どれだけ才能があっても、強くもなれないし、巧くもなりませんから。そういう意味で“強くなれる”要素はいくらでもあります。そして、これは日本の武道すべてに言えることですが、肉体の鍛練と合わせて礼儀作法を学ぶこともできます。礼儀作法は子どもたちが成長していくうえで必要ですし、一人の人間として尊敬されるためにも大切なことです。言い換えれば、武道は人が人として接する作法で学べます。だからこそ、教えてもらうことへの感謝も生まれます。共に稽古をする仲間への有難味や、いい意味での競争意識も培われるほか、後輩に対する思い遣りも持てるなど、人として、人と関わりながら、成長できることが空手の良さだと思っています」

組手でも試合でも「一度も倒れたことがない」という強靭さ

入門して以来、人並み以上の稽古をして、四回にわたる全日本大会優勝を果たした大畑だが、話を聞いて驚いたのは、一度もKОされたことがないということだ。倒されなかったのは、打たれ強かったというより、そのファイティングスタイルにあったのだろう。蹴りよりもパンチ主体で攻めるファイターで、組手も試合も「始め!」がかると同時に、攻撃を仕掛けていた。

「バランスが良かったのか、あるいは体が柔らかかったのも倒されない要素になっていたかもしれません」

大畑はそう語る。もちろん、それもあるだろう。しかし、倒されるというのは、何らかの流れで自分の身を引いた時になる。あるいは、カウンターをくらった時だ。
まず、前者の例として、ファイタースタイルの選手は顎を引いて、前に出るから間合いは当然、近くなる。すると、相手の打撃技がクリーンヒットするタイミングが減るのだ。

さらに、大畑は反射神経も動体視力も勘も良かった。だから、パンチも蹴りもまともに当たらないのだ。対戦相手にとって、これほど、やり辛い者はいない。自分の“打撃の間合い”で戦えないうえに、カウンターをとろうにもそれができない。こうなったら、下がって、間合いを開けるか、相手と同じように接近戦に持ち込むしかないのだ。
サイドステップや捌きという手もある。しかし、街中のストリートファイトならともかく、限られた短時間勝負の試合でそれをするのは極めて難しい。回り込んでも、すぐに攻撃されるからだ。そのうえ、大畑には、自衛隊で鍛えに鍛え抜いた抜群の体力も精神力もある。通常の体力とは違うのだ。本人はそう言わなかったが、攻め続ける体力も人並み外れたものがあったと思う。
そして、「倒されたことがない」という選手は脳にそれがインプットされていない。何度か倒されると、その衝撃=ダウンが脳に記憶されるから、倒れやすくなる。しかし、大畑にはそれがないのも強みだったに違いない。

 「二発、殴られたら、倍、殴り返す」という突進型の戦法が彼の強みだったのである。前々回ぐらいの記事で、その大畑が打撃恐怖症になったと書いたが、それも倒されてなったのではない。スーパーセーフがずれて、相手が見えない状態で何発も膝蹴りをくらったからだ。しかし、その恐怖心も彼は克服している。ファイターで、なおかつ倒されない選手がそうなったら、これは本当に強くなる。四回優勝も「なるほど…」と納得させられるものがあった。

ちなみに、大畑が初めて出場した試合で、七試合やって、準優勝したにもかかわらず、昇級できなかったと言う。理由は大畑の入門誓約書を師範が出し忘れていたからだそうだ。さぞかし、悔しかったのでは?と思ったのだが、彼はそれよりも「懇親会で、顎が痛くて、まともに食事ができなかった」ことの方が辛かったようだ。タフな大畑とはいえ、初試合で七試合もすれば、そのダメージが残って当たり前と言っていいだろう。

禅道会 大畑慶高の武道人生 記事一覧

2020年11月19日発売
「伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方」

伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方

禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!
2020年11月19日に出版されます!

発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904

陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。

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