日本拳法について

強烈な打撃の威力は、波動拳という独特の打撃法から生まれる。

自分の知り合いで日本拳法を学んでいるAくんという男がいる。彼は中学時代に柔道部、高校は極真空手、その後、キックボクシングジムにも通っていた。そして、日本拳法を始める直前、地下格闘技(すでに無いが、金網内で戦う)で二試合して、一回引き分け、二回目は強い相手とやらされ、二ラウンドでTKО負け。体重差のハンディもあったそうだ。その直後、知人から「日本拳法はすごいよ」と言われ、興味を持った。37歳の頃だというから、武道をやるにはずいぶん遅いスタートと思われるかもしれないが、それ以前の下地はあったのである。早速、紹介された日本拳法の道場へ行ったところ、いきなり組手をやらされたと言う。積極的に攻撃を仕掛けたAくんだが、相手の顔面に対するディフェンスが素晴らしく、彼のパンチは一発も当たらなかった。これはすごい!と思い、その場で入門。

日本拳法の道場では、どんな練習をするのかと興味を持って訊ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「アップしたら、すぐに防具を着用してのガチスパーがメインです。日本拳法が他の打撃武道と違うのが、足運びですね。剣道に近い、遠い間合いからの打撃があります。蹴りの間合いから拳を飛ばしていくという感じでしょうか。組手の際は鉄面と皮胴を着用して、グローブは八オンス。破壊力は波動拳という独特の打撃法が非常にあります。構えの手を開掌にして手首を起こし、打撃箇所に当たっていく瞬間に徐々に指先から丸めて拳を作るようにして打ちます。手首のスナップを最大限に生かした独特の打ち方で、踏み込みの加速と足の蹴り込み、腰の回転で体当たりするかのように打つのが特徴です。基本は『垂肩絞脇(すいけんへいきょう) 』で肩はリラックスして、脇が締まった状態。形・構えとしては、琉球唐手の本部朝基師の夫婦手に似ています。それから、ボクシングの影響も強くありますね。攻撃に関して言えば、ボクシングのフックのような横打ち、アッパーのような揚打ち、その他、空手の裏拳のような斜打ちや野球のオーバースローのような打ち方もあります。波動拳を利用して横打ちなら開掌の手首を柔らかく返し、相手のこめかみに当たる寸前に拳を固めて打つという方法もあります。蹴りについては、相手を突き徹すような突き蹴り、かがんだ相手の腹を蹴り上げる揚げ蹴りがありますが、空手やキックボクシングのような廻し蹴りは少なく、顔面への横蹴りと後ろ廻し蹴りぐらい。鉄面を蹴るので、打撲や骨折などの怪我のリスクが高いんです。それから、防具のない箇所への打撃は反則とされているので、ローキックはありません。足払いで相手を崩す程度です。投げ技もありますが、これが決まっても、柔道のように一本にはならなりません。倒れた相手に打撃を放つか関節技をかけて初めて一本になります。後、ムエタイの首相撲のような攻防からの膝蹴りも認められていますし、倒れた相手へ関節技以外の攻撃も認められています。一本技の中には股蹴りという急所蹴りもあるほか、面膝といって、後頭部への打撃も一本になります。また、上四方の四点ポジションからの頭部への膝蹴りもОK。後、踏み蹴りといって、転倒した相手の頭部・胴への踏み込みも認められています。防御に関しては、入り身、反り身、くぐり身、沈身などがありますが、これもボクシングの影響ですね。いずれにしても、殴り合いへの慣れ方が半端じゃありません。日本拳法を学んで、八年以上になりますが、ボクサーやキックボクサーのライセンスをもってデビューする前の選手なら、相手の打撃は見抜いて反応できます。それから、鉄面の重さは2.7㎏でタオルも入れるので、3㎏近くなるんです。これがかなり重いので、首回りも太くなり、40㎝ぐらいになりました。だから、打たれ強くなりますよ。多少のパンチを食らっても、応えないし、効きません。ハイキックを食らっても、ビンタを張られた程度。日本拳法の他の武道とイニシアチブがとれるとしたら、独特の間合いとひたすらガチスパーの練習なので、殴り合いに対する練度が高まります。その一方で不利なのは、レスリングに近い組み技になると、グローブを着けているため、あまり関節技が使えないこと。それでも強い人は化け物みたいな強者がいます。特に自衛隊の精鋭部隊は半端なく強いです。ただ、試合に勝利してなんぼの世界なので、誰もができる武術ではありませんね。競技人口も少ないし、大学と自衛隊がメインでやっているような現状です」

日本拳法の歴史を探る

ここで、日本拳法の歴史を探ってみることにしよう。文献を読むと、昭和7年に故・澤山宗海宗家(以下、敬称略)が大阪で大日本拳法を創始したことに始まる。澤山が学生だった昭和初期の頃、いくつかの古流柔術を見て回ったらしいが、本人にとって納得する武術・武道がなかった。そこで、当時沖縄から大阪に引っ越しして、唐手(現在の空手)を教えていた摩文仁賢和(糸東流開祖)を関西大学に招いて、昭和5年、唐手研究会を設立した。しかし、唐手を習い始めたものの、稽古の大半は型稽古であり、実際の打ち合いに関心を抱いていた澤山は次第に唐手に興味を失っていく。その後、澤山は大阪府にある垂水神社の境内で同門たちと自由に打ち合う組手稽古を始めた。そして、昭和7年、関西大学法学部を卒業後、共に稽古していた仲間たちと「大日本拳法」と称する武道を正式に立ち上げたのである。澤山は自身の母校である関西大学と吹田市を拠点に日本拳法会を開き、当初から大学体育会を対象に普及がなされたらしい。先にも知人の話で紹介した日本拳法独自の突きの威力は他流派でも知られており、日本拳法を代表する技の一つと言われている。しかし、知人の話によると、この波動の法則を適用して、打撃技に強い威力を与える波動拳は今日ではあまり知られていないそうだ(古い技術書にはそのあたりのことが詳しく解説されているとのこと)。

いずれにしても、空手やキックボクシングやボクシングが今のように日本中に広まる以前の話である。拳を使った武道の熟練者が自由に突きや蹴りを繰り出す稽古は極めて危険とされ、現在のような直接打撃制の組手や試合は行われなかったのである。その状況を打破するため、安全かつ自由に打撃技を応酬できる防具を開発し、完成させたのは澤山ならではの斬新な発想と言っていいだろう。さて、ここでもう一度、知人のAくんの話に戻る。

「日本拳法の技術は、実際の格闘における戦闘術のようなもの。実際、それを証明するように自衛隊で行われる徒手格闘技、あるいは警察官が犯人を確保する際に使う逮捕術の基になっているのが日本拳法の技術です。これは日本拳法の実戦性を物語る一例と言えるでしょうね。ちなみに、日本拳法に階級はありません。試合は体重制が採用されていないので、体格差なく相手と戦わなければなりません。本来の戦闘を考えると、身体が小さいとか、歳だからとかは関係ありませんし…。試合は3分間3本勝負で行われ、一本の認定は、拳技に『決め』があり相手の受技に妨害されずに所定の箇所にヒットし、まぐれ当たりでないことによって決まります。先ほども話したように、一本技の中には組合った状態から相手を倒し、顔面に膝蹴りを放つ危険な技もありますが、そのあたりは、さすがに選手も手加減しています」

ボクシング・キックボクシングをはじめ、その他格闘技にも多数の選手や経験者を輩出している日本拳法。一般にはあまり普及してはいないが、凄みのある武道だという感想を抱いた。

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